米津玄師に続け! moraの選ぶNEXTブレイクアーティスト2019

昨年最大のヒット曲となった米津玄師「Lemon」。深い哀愁を湛えたメロディと歌詞、最先端の音楽トレンドにも目配せの利いたサウンドに加え、もともとは「ハチ」名義でボーカロイドを使った作曲活動(ボカロP)をしていたという、そのオルタナティブな出自にも注目が集まりました。

米津玄師/ハチの特徴を改めて振り返ると……

  1. リズムと言葉の関係性の探求
  2. 匿名性(既存の「アーティスト」像からの自由さ)
  3. 映像やアートワークも含めた総合的な表現

以上の3要素が挙げられるのではないでしょうか。(moraの人気記事「米津玄師のココがすごい!」もぜひ)

moraでは「米津玄師に続け!」ということで、以上の3要素のいずれか、または複数の要素を兼ね備えているアーティストこそ今年のブレイクとなるだろうと睨み、10組をピックアップしてみました。ぜひご笑覧を!

 

Eve

アーティストページ

他クリエイターの作った歌を歌う「歌い手」文化を出自とし、後に作詞作曲も手掛けるようになったというEve。フラットでどこか語りかけるような歌唱法、優しさと残酷さを兼ね備えた、童話のような物語性ある作品作りに特徴があります。また服飾デザイナーという顔も持ち、ブランドの公式サイトによれば「性別や体型を選ばない、等身大の自分でいられるようなユニセックスブランド」を目指しているとのこと。洋服のように聴き手を包み込み寄り添う「空白の存在感」が際立つ、新しいタイプの匿名アーティストです。

 

須田景凪

アーティストページ

「すだけいな」と読む彼は、「バルーン」名義でボカロPとしても活動。公式サイトのオフィシャルインタビューでは「ボカロも歌も両方大好きだし、〔…〕お互いの良さを出して、作り分けていきたい」と語っています。音楽性は米津玄師もかつて一翼を担った、2010年代初頭の「高速ボカロック」シーンが思い起こさせるもの。素早いカットの切り替えやタイポグラフィ(文字による演出)に呼応したテンポチェンジの妙で「視覚的に訴えかける」音楽の可能性を、生歌唱と生演奏により再構築してみせています。

 

ずっと真夜中でいいのに。

アーティストページ

作詞・作曲を手がける女性ボーカリストの「ACAね」を中心に、ボーカロイド界隈で名をはせる「ぬゆり」が編曲で参加。テクニカルな生楽器の演奏と、独特の質感を持ったアニメーション動画が合わさり一気にバズを引き起こした、いまだ謎の多いプロジェクトです。転調を駆使した楽曲は2010年代のボカロ・アイドル・アニソン文化の蓄積を体現しているとして、蔦谷好位置氏も大推薦。時おりTwitterでアップされる弾き語り動画からは、複雑な楽曲を歌いこなす「ACAね」の“素”の歌唱のスキルの高さも垣間見えます。

 

美波

アーティストページ

情感あふれるポエトリーリーディングを取り入れた歌の表現に、時にがなるような歌唱法も駆使するシンガーソングライター。顔出しはせず、MVはすべてアニメーションというスタイルですが、歌詞はリアル寄りの切実な内容を歌っており、リアルとバーチャルの差異がすっかりなくなった時代を体現しているアーティストとして注目されます。発声と表記が一致していなかったり、あえてカタカナで書くことでダブルミーニングを持たせている歌詞も独特。それらの仕掛けが存分に楽しめるMVも、ぜひ見てほしいです。

 

キタニタツヤ

アーティストページ

ボカロPとして「こんにちは谷田さん」という名義を持ち、作曲家の渡辺翔らと組んだユニット「sajou no hana」の一員でもあるなど、多岐にわたる形態で活動するミュージシャン。ソロとして初めてリリースしたアルバム『悪魔の踊り方』では、ダークなコラージュ風のアートワークにも表れたマイナー調の世界観を、ダンスビートを強調したバンドサウンドに乗せて聴かせています。多くの表現チャンネルを持つ彼が、「自分という楽器」を用いて送り出す作品がどのように展開していくのかに注目です。

 

秋山黄色

アーティストページ

明確に米津玄師からの影響を公言する22歳。インタビューを読むかぎり洋楽からはほとんど影響を受けておらず、ギターを持ったきっかけもアニメ『けいおん!』という生粋の邦ロック世代。宅録で練り上げられたその楽曲の純度は非常に高く、鬱屈としたオルタナロック的な粗削りさは、プレイリスト文化全盛な今こそ際立つものではないでしょうか。1st作品にはドラムスにZAZEN BOYSの山下敦が参加しており、「ニート」という自称に反して(?)男臭いボーカルに説得力を与えています。

 

中村佳穂

アーティストページ

ジャズやソウルのエッセンスを感じさせるバンドの演奏に対して、少しずつ拍をずらしていくような野生のリズム感覚を持った歌を乗せていくボーカリスト。アルバム『AINOU』は即興的な演奏が楽しめつつも、彼女のボーカルの抑揚によって全体が絶妙にコントロールされており、いきものがかり・水野良樹や米津玄師らのミュージシャン、蔦谷好位置・manabuaといった売れっ子プロデューサーも絶賛。一線級の作り手がこぞって制作の過程に興味を抱く、ソロアーティストの新しいあり方を予感させる存在です。

 

King Gnu

アーティストページ

芸大・音大の出身者から構成され、映像・アートワークなど隅々まで自らの美意識を通わせるアーティスト集団。実験的な音楽性を突き詰めることも可能だろう彼らが、純粋に「音楽的な面白さ」を求めて「スタジアムや、野外フェスの大会場で鳴っているロックミュージック」を奏でようとしているのが面白いです。そんな彼らが「ポップス」の見本として挙げるのは、井上陽水や桑田佳祐ら、歌謡的な色気をもつシンガー。King Gnu節としか言いようのないオリジナリティを早くも確立しつつあります。

 

崎山蒼志

アーティストページ

昨年彗星のごとく登場した高校生シンガーソングライター。非常に多彩なコードを用いつつ、独特の声質と彼自身のたたずまいも相まって人懐っこさを感じさせるポップスとしての魅力も兼ね備えています。独特のしゃくり上げるような歌唱と、絶妙なグルーヴを生むタメも唯一無二。代表曲「五月雨」の歌詞、<素晴らしき日々の途中/こびりつく不安定な夜に/美しい針の声を/静かに涙で濡らすように>に象徴的な、五感を刺激するような独特の言語感覚にも注目の新世代詩人です。

 

長谷川白紙

アーティストページ

tofubeatsなどを輩出したネットレーベルmaltine recordsから2017年EPをリリースするや否や、現代美術関係者などからも高い評価を受けた現役音大生ミュージシャン。情報過剰な時代の感覚を体現したかのようなブレイクビーツに彩られたその作風からは、Aphex Twinやコーネリアスといった、インテリジェンスとファニーさを兼ね備えたアーティストの名前が連想されます。ゆるくエフェクトをかけた彼自身の声が持つ「歌もの」としての魅力もあり、今後の方向性が良い意味で読めないアーティストです。